なぜチャンプ本を決めるのか?

チャンプ本の意味 :なぜチャンプを決めるのか?

ビブリオバトルでは、みんなが5分間プレゼンして、そのあとに「一番読みたくなった本」つまり チャンプ本 を多数決で決定します。
多くの読書会や書評会では、わざわざチャンプ本なんて決めません。

このチャンプ本を決めることをビブリオバトルの話を初めて耳にしたとき
「勝敗を決めるなんて、読書になじまない!」
「みんな好きな本を読めばいいじゃない。勝つために本を読むわけじゃないよっ」
と、眉をひそめられる方もおられます。

ごもっともな感じもしますが、実は、その場で

「チャンプ本」を決めるのは、ただ「勝ち負け」をつけるためだけのものじゃありません。

チャンプ本を決めることには
「人を通して本を知る、本を通して人を知る」
ビブリオバトルというメカニズムの本質と関わった幾つもの理由があるのです。

ビブリオバトルは、楽しい本を持ち合って語り合うスポーツのようなコミュニケーションの場をつくる方法です。

その場を実現するために、「チャンプ本を決める」という一見、単純なゲームのような仕組みは、コミュニケーションの場に重要な効果を与えるのです。

  1. みんながみんなの為になる本を持ってくるようになる

      • 「自分が好きな本」というだけではチャンプ本をとれないので紹介されるみんなの視点が自然と盛り込まれてくる

      • 独りよがりじゃない 本を通してのコミュニケーション が生まれる

  2. 発表者がみんなに語りかけるようになる

      • みんなが票をもっているので一人ひとりに伝わるように一生懸命「語る」努力をするようになる

  3. 聞き手もいつもより真剣に聞く

      • 自分の一票でチャンプ本が変わってしまうかもしれない!
        聞き手にも一票があたえられることで
        ただ聞くよりも積極的に発表を聞いてくれるようになるようです

  4. みんなで評価することでみんなの視点がわかるようになる

      • 他の人の評価がみえることで自分のものの見方が一面的であることに気づき多様な価値観に気づくことができる

  5. スピーチに対するリアルなフィードバック

      • 発表時のみんなの表情終わったときの投票その後の会話を通じてみんなの意見がもらえるのでスピーチの練習にはもってこい


それでは、チャンプ本 をみんなで選ぶというビブリオバトルスタイルをとらなかった 場合、 どういう失敗が起こりがちでしょうか?

【事例1】好きな本を紹介するだけの会

→→ みんなが好きな本を紹介するだけ で終わる?

「みんなが好きな本を読んで、好きに紹介すればいいじゃないか!?」
これでも、いいように思います。
もちろん、うまくいくこともあります。

話しの上手い人が、すきな本を紹介して楽しい時間が流れることもあるでしょう。
しかし、得てして、これだけだと「自分がこの本が好き」という、ひとりよがり なトークに陥りがちになることがあります。

他の人に「語りかける」のではなく ただ「ボクはこう思った」「こう面白かった」ということを 話す傾向になりがちです。
(もちろん、参加者次第でそうならないこともあります!そういう会を批判しているわけではないですよ!)

また、選ぶ本も 「みんなもおもしろいと思う本」 ではなく、ただ単に、自分が読んだ本、自分の感覚を そこに参加する「みんな」に関係なく語ってしまうことになりがちなのです。
もちろんそれでも「本を通して人を知る」ことはできますし、「人を通して本を知る」こともできます。

実は チャンプ本を決めることはゆるやかに
「ビブリオバトルの場 は 参加するみんなのためになるもので あるべき」
という モットー を 仕組みとして 入れることにより、上記のようなことが起こりにくいようにしている工夫でもあるのです。

【事例2】 先生がチャンプを決める書評会

→→ みんなが何が読みたいか、興味あるか、が見えてこない。他の聴衆はおいてけぼり。

よく、研究室やゼミの勉強会で
「今日は 下本荘君の 発表がよかったねぇ~。そうは思わないかいみんな」
というように、勝手に先生が評価を下す場面がみかけられます。

学校や多くの教育システムでは{一部の知識をもった偉い先生が知識の無い学生に「正しい」判断をおしえてあげる}
といった考え方 に縛られがちです。

ビブリオバトルは、そういうタイプの集まりではありません。
少なくとも個々の読み手の視点に立った絶対的に優越した知識、ものの見方、考え方をもった人なんて存在しないと考えます。
つまり、「こう読むべき」「これを読むべき」の絶対的な規範など存在しないのです。
(もちろん研究室毎に先生が自らの本を勧めるのはいいことですよ!)

ビブリオバトルの場は
自由主義的かつ民主主義的なコミュニケーションの場を目指しているのです。

ビブリオバトルは
「その場に 参加したみんな が本や知識との出会いを楽しむための場」を目指しています。

「みんなにとって面白そうな本」を持ってきた人、
「みんなにとって面白そうな本」をしっかり紹介した人

これが、ビブリオバトルの場に一番貢献した人なわけです。
ですから、チャンプ本を選ぶのは「みんな」であるべきなのです。

「チャンプ本」を決めることは、そういう意味でビブリオバトルにとって重要なパーツです。

でも、間違えないでください。
ビブリオバトルはスポーツとして、チャンプ本を決めているのであって、それが過剰になると良くないことも起きるかもしれません。

雪合戦で勝敗を決めるのは楽しいでしょう?
でも、カラダを動かしてみんなと遊ぶこと自体が ほんとは一番の楽しさの源泉なのです。

もし、勝ちたいが為に 「雪球に石を入れる人」 が現われたら、その場は 楽しくもなんとも無い場になってしまいます。

ビブリオバトルも同じです。
チャンプ本を決めることは、スポーツとして、ゲームとしてのスパイスなのです。
決して、石を入れるようなアンフェアなことはやめましょう。
(これは、本の内容について嘘をついて発表することなどが該当するかもしれません)

また、そういう風な過熱状態にならずに、和気藹々とした、みんなにとって楽しい話になるように、参加者みんなが配慮しましょう。

知的なお遊び に スポーツマンシップ (ビブリオバトラーシップ?)は大切です☆

2010/02/17 文責:谷口忠大
2013/09/15 一部改稿