ビブリオバトル誕生秘話

文責:谷口忠大(本人) 2010.02.12

ビブリオバトルとは 谷口忠大(たにちゅー: tanichu) らによって始められた。

本を用いて人と人を繋げ、人と知識を繋げる、知的遊戯である。
このページでは、その生まれから現在にいたる足跡を追うことで、ビブリオバトルとはなんなのか?を探りたい。

1.ビブリオバトル誕生

2007年4月 たにちゅーが京都大学情報学研究科共生システム論研究室(片井研)に日本学術振興会特別研究員(PD)としてやってくる.

工学研究科の機械系で人工知能系の研究で学位をとっておきながら、

当時、経営学や組織論に興味をもっていた たにちゅー は新天地 片井研 で新しい有志ゼミを立ち上げようと考えた。

しかし、輪読会や論文紹介 といった、よくある研究室の盛り上がらない勉強会運営に疑問を感じていた たにちゅー は
「何かおもしろいやり方はないか?」
と考えた。

特に輪読会は 課題図書を一冊決めて、みんなで順番に読んでいくのだが、 これは イマイチな本を選んでしまうと最悪なのだ。

つまらない本を選んでしまったら、それだけで半期がムダになる。
ゆえにスゴクリスクが高い。

個人的な感想だが、経営学や組織論ではケーススタディのようなモノが重要で、かなり 雑多に読む必要があると思い、

「この一冊をじっくり読めば大丈夫」というものでもないと思っていた。

そこで、「イイ本 に出会える仕組み 自体を 勉強会の中に取り込めないだろうか?」と考えたのである。

また、誰かがレジュメをつくって、その発表をみんなが聞くだけ という勉強会は いつも盛り上がらない。

人の脳は自分が話さないと活性化しないのだ。

それから、レジュメの準備 なんて、実は場を鎮静化させているだけじゃないだろうか? とも思うのであった。

そこで「即興性」を大切にして、みんなが探してきた本を レジュメもなく紹介し合って

その中で一番イイ本を勉強すればいいんじゃないか?

という、現在のビブリオバトルの原型が出来てきたのである。

ここで、ビブリオバトルの象徴ともいえる カウントダウンタイマーも現われる。

カウントダウンタイマー を回しながらアドリブで読んできた本を プレゼンし

最後に投票でチャンプ本を決めるという、

現在のビブリオバトルの原型が誕生したのである。

※ このアイデアは IT系の研究会でとられる ライトニングトーク と呼ばれる短時間プレゼンに着想を得ている。

2.諸ルールの緩和と5分ルール、そしてYoutubeとの融合

さてさて 当時、片井研究室で毎週水曜日で走り出したビブリオバトルだが、初期の形態はうまくいかない面をもっていた。

初期のビブリオバトルでは 学ぶべき本を見つけだす! という使命が先行し

「チャンプ本に選ばれた本は みんなが読んで議論する」

というルールが存在した。

しかし、これが、かなりシンドイ。

どうしようかと思ったが、実は,こういうルールが無くても「チャンプ本」に選ばれた本や、その他の本を

強制しなくても「みんなが読みたくなって読む」という現象があらわれたのである。

では、なにもムリに読んでもらう必要はないのである。

紹介された本は、読みたければ 読めばいい。 (^o^)>

それで、十分効果のある「場」なのだということが分かってきたのだ・・・。

また、始めは「組織論」の勉強会というシバリがあったが、 これも 緩和した。

紹介する本は、基本的に何でもイイ。どんな本でもイイ

これでは、場がムチャクチャにならないだろうか?

しかし、そうでもないのだ。

実際には、チャンプ本 をとるためには、みんなが興味の有る本でないと

チャンプ本になることが出来ないこともあり、自然と構成メンバーが

「みんなが好きそうな面白い本」

を持ってくる努力をするのだ。

緩やかに、自己組織化が起こるのである。

つまり、 持ち寄ってプレゼンしてチャンプ本を選ぶ、という仕組みだけで

いろいろなコトが自然と実現する事が見えてきたのだ。

また、同時にプレゼン時間も5分という時間に収束していった。

このくらい丁度いいのだ。

また、その5分は YouTubeをも意識したものだった。

YouTubeで見れる動画は大体5分程度が限度で丁度いい。

当時の WEB2.0 ブームに乗っかって

たにちゅーは ローカルな書評合戦と WEBを介した広域な発信を組み合わせることが

ある種のアンチテーゼになりながら、マッシュアップとしても面白いのではないかと 考えた。

そして、現在のビブリオバトルの形がほぼ出来上がったのである。

3.2007年~2008年

2007年の間、片井研にてビブリオバトルが続けられた。

全ての記録は http://bibliobattle.net/ にあるのでご覧頂ける。

ちなみに、YouTubeアップロードをはじめて初回の優勝者は

yoshinohidetomo氏の「会社は頭から腐る」 だった!

片井研は理系の研究室ながらに 壁が書籍で覆われている 本の香りのする研究室だった。

そしてまた、先生自体が、学生を好きに泳がせてくれる研究室だった。

まさに、ビブリオバトルをインキュベートするには最高の空間だったと言えるだろう。

さてさて,、2007年は 普通に一研究室内の「かわった勉強会」として、YouTube に垂れ流しながら

つづいていったのである。

このYouTubeへの「晒し」も 露出を全くいとわない、 たにちゅー、 Yoshino が中心だったからこそ

できた実験だったかも知れない。

2007年はYouTubeにのせるスタイルになって、10回ほど開催された。

また、年度末には「ビブリオ祭り」と称して、トーナメント式(?)のビブリオバトルをやった。

しかし、書籍で、トーナメントだなんて!
こんなにスポーツ的なコトがこれまであっただろうか?

ビブリオバトルは 読書を しっかり、たのしいゲームになってしまっているのだ。

2008年度からは たにちゅー が片井研を離れ、立命館大学に助教として着任したこともあり、

西川徳宏氏が、片井研内の運営を引き継いで 2008年度も続いていったのである。

4.人を育てる、繋げる ビブリオバトル

実践の中で見えてくることがあった。

それは、

  • ビブリオバトルをやることで「本を通して、人が見えてくる」

  • プレゼンテーションスキルが飛躍的に向上する

ということだ。

端的にはキャラが立ってくるのだ。

(日野亜希子 画)

だいたい,だれしも 初回 プレゼンをすると,うまくしゃべれない. 5分間をもてあましてしまう.

そうすると,「つぎこそは!」と思うんですね.

ビブリオバトルに挑戦した人は とりあえず3回やることをオススメします.

3回やると 大分みえてきますし,キャラも立ってきます.

実例をみてみましょうか?

片井研の外から参加して,プレゼンしていった 某なかむら氏のプレゼンの変遷を見ていきましょう!

初参加のプレゼン 宇宙をプログラムする宇宙

第4回目のプレゼン トリオリズム

第7回目 ムダヅモ無き改革 ☆ついに チャンプ本 に輝く !!

この間 一年が経っていることも有るのですが、5分の使い方がドンドン上手くなっているのが わかるのではないでしょうか?

そして、ぼくらにとっての中村君 のイメージもドンドン変わり、

すごく キャラ立ち していったのです。

  • 好きな本を通して人がわかる。

  • 5分の語りを通して、自分が出せる。

  • 堂々とアピールできるようになっていく!

日本人は ディべートやスピーチの鍛錬を しないっていわれるんですが、

他人を批判する ディベート の鍛錬は 日本人に合わないなんて言われます。

また、意見を堂々と述べるスピーチも 日本人は苦手みたい。

でも、「読んだ本を紹介するだけ!」

これなら出来るらしい!
そして、素直にスピーチ能力も育っていくのです。

ビブリオバトルを通して、だいたい、 みんな キャラが見えてきます。

そのキャラが すごく 憎めない!!

コミュニティにとって ビブリオバトルは インフォーマルコミュニケーションの切り札になるんじゃないか? と思い出したのです。

5. 拡がる ビブリオバトル

さてさて、1年~2年続けている間に、ビブリオバトルという形式、場作り自体が

かなり大きな可能性をもってるんじゃないかと思いだした。

2007~2008年のシーズンでは

http://biblio.sblo.jp/

というブログにYouTube画像を貼り付ける形で公開していたのだが、これはスゴク更新に手間がかかる。

そこで、ビブリオバトル専用 WEBサイトをつくろうという事になった。

友人のネット企業 ムニンワークス株式会社の助けを得てつくったのが

http://bibliobattle.net/

なのである。

さてさて、一方で 立命館大学にうつった たにちゅー 自身は 開催の機会を得られず 伸び悩んでいた。

一方で、理解者も現われ出す。

まず、京都大学の総合人間学部のフィールドワーク研究会が 読書会の手法としてビブリオバトル形式をとりあげて
開催しだしてくれた。

さらに2009年からは 阪大のサイエンスコミュニケーションのグループ Scienthroughさんが
ビブリオバトルを活動の中にとりいれだした。

2009年の夏に 京都のカフェで 意見交換する たにちゅー、西川徳宏 とScienthroughの飯島さん みなさん

Scienthroughさんは 大阪を中心に ガンガン活動と実験をくりかえしていっている。

違う環境条件の中でビブリオバトルのいろんな可能性がみえていっているのだ。

ビブリオバトル@スチューデントコモンズ

また、2009年秋には たにちゅー が ビブリオバトルの狙いを 書評を媒介にて人と人、人と書物(知識)を媒介するインタフェースとして

ヒューマンインタフェース学会2009 に発表、 そのコンセプトを発信した。

谷口 忠大, 川上 浩司, 片井 修
ビブリオバトル:書評で繋がりを生成するインタフェースの構築
ヒューマンインタフェースシンポジウム2009, in CD-ROM .(2009)[PDF]

6. ビブリオバトルの彼方へ

たにちゅーと吉野が始めた黎明期の 2007年

たにちゅーの手を離れ片井研の中で仕組みとしての可能性が試された誕生期の 2008年

片井研という特殊な場をはなれ,さまざまな担い手のもとへ広がり始めた成長期の 2009年

そして、 2010年は 爆発的普及への 足取りを とっている。

正式に ビブリオバトル普及委員会 を設立。

開催地も、より多極的に拡がり、さまざまな 繋がりの中で、

この しくみ を この 知的なお遊び を みんなのもの にするべく

ビブリオバトル普及委員会は頑張るのです!

ビブリオバトルは絶対楽しいし、そして、ためになる。

活字離れなんてなんのその。
面白い場さえ あれば、本はきっと楽しくなる。
知識はぼくらを豊かにする。

本は一人で読むモンじゃない。
本は人と人とを共通の言葉でつないでくれるものなんだ。

それを当たり前にする場所を ビブリオバトルは つくっていくのだ。

ということで、みなさんビブリオバトルをやってみませんか!!??