新年のご挨拶 2016年

新年あけましておめでとうございます。
ビブリオバトル普及委員会の代表として、新年度のご挨拶を申し上げます。

昨年(2015年)は、ビブリオバトルの開発者であり、同時にビブリオバトル普及委員会を長らく牽引してきた谷口忠大氏が代表から退き、二代目として私(岡野)が代表就任するという出来事がございました。
ビブリオバトル普及委員会という組織にとって、これまでになく大きな変化が訪れた年になったと思います。

2015年6月に代表交代の所信表明をしてから、あっという間に半年が経ちました。http://www.bibliobattle.jp/whatsnew/biburiobatorupujiweiyuanhuixindaibiaojiurennogoaiza

この経緯は、谷口氏がサバティカルを理由にしばらく海外へ研究拠点を移されることが決まったことで、日本国内から距離的にも遠く離れてしまうことがそもそものきっかけとなったものです。
私自身はそれ以前からビブリオバトル普及委員会の理事の一人として活動に関わってきましたが、過去に「Library of the Year 2012」での大賞受賞の際のプレゼンター役をお引き受けしたという経緯もあり、谷口氏からの強い後押しもいただきまして、二代目の代表をお引き受けすることになりました。http://www.iri-net.org/loy/loy2012.html
これまで以上に重責を担わなければならないお役目へと立場が変わりましたが、引き続きビブリオバトルの普及活動に力を注いでいきたいと思っております。

代表が交代することで、体外的なやりとりについては私の責任のもとに行うようになりましたが、谷口氏には引き続き理事の一人として、渡航先からオンライン経由でビブリオバトル普及委員会の舵取りにご協力いただいております。
ビブリオバトル普及委員会としては、谷口氏が日本から離れてしまう機会を前向きに受けとめ、ビブリオバトルの新たな展開を模索するための変化の時期と捉えてみたいと思います。

さて、谷口氏が中心となって動いてきた2010年からのビブリオバトル普及委員会の数年間の活動は、主にビブリオバトルというゲームを「いかに広めていくか」「身近なものにするか」というように、「普及」に重きが置かれていたように思います。
たとえば、全国各地の活動事例や報道記事などを取りまとめることで、ビブリオバトルの普及過程や盛り上がりが目に見えるように、さまざまな関連情報の整理を続けております。また、ビブリオバトル普及委員会の会員を継続的に募集し、その人数を増やしております。
これにより、さまざまな場所でのビブリオバトルの開催支援や講演会講師を、地域ごとに分担しながらお引き受けすることも可能となってきました。

2014年に開催した「ビブリオバトル・シンポジウム2014」では、「学校教育」「図書館」「地域コミュニティ」という三つの柱をテーマに据えました。http://sympo14.bibliobattle.jp/

このようにさまざまな場所での実践事例が確認され、それぞれのコミュニティでの導入の課題を議論し、そのノウハウを共有できるようになったのも、ビブリオバトル普及委員会が2010年から地道な活動を続けてきたからだと思います。
これまでに出版された4冊の関連書籍は、ビブリオバトルの活動の方向性を指し示すものであると同時に、その可能性をさらに広げていくきっかけにもなってきました。
http://www.amazon.co.jp/dp/4166609017/
http://www.amazon.co.jp/dp/4889510494/
http://www.amazon.co.jp/dp/4378022273/
http://www.amazon.co.jp/dp/4864121001/

新代表としての最初の大きな仕事は、2014年に次いで2回目となる「ビブリオバトル・シンポジウム2015」を実行委員長として開催することでした。http://sympo15.bibliobattle.jp/

「コミュニティをつくるビブリオバトル」と題したディスカッションのなかで、大人が楽しめるビブリオバトルの開催について、楽しく語り合うことができました。
Tokyo Biblioの亀山氏、着物でビブリオバトルの雨宮氏、BiblioEi8htの五十嵐氏、特殊ジャンル本愛好家の安村氏の4名のパネリスト、そして谷口氏とともにビブリオバトルの草創期に関わってきたコーディネーターの吉野氏によるディスカッションは、それぞれのパネリストが自らの体験に基づいた事例と見解を述べられ、最初から最後まで楽しいビブリオバトルのあり方を伝えてくれたように思います。

http://tokyo-biblio.com/
https://twitter.com/kimono_biblio
https://biblioei8ht.wordpress.com/

あの日を振り返ってみても、とても有意義なシンポジウムになっていたように思います。
図書館業界に携わっている立場としても、「Library of the Year 2012」でお世話になった図書館総合展の場に、3年経ってさらに大きく成長した形で戻ってくることができたことは、とても嬉しい出来事でした。
http://www.libraryfair.jp/
シンポジウムの開催にご協力いただきました図書館総合展運営委員会をはじめ、後援をいただいた文部科学省ほか県・市教育委員会や団体の皆さま、協賛金のご支援をいただいた企業さま、そして全国各地でビブリオバトルを楽しんでくださっている皆さまには、改めて深く感謝申し上げます。
昨年度の「ビブリオバトル・シンポジウム2015」の様子は動画にも残しておりますので、ご関心のある方は、そちらもぜひご覧いただければと思います。
https://youtu.be/OdC-JI3h-vc

ビブリオバトルが世の中に登場した2007年から数えると、2016年は10年目となる節目のタイミングとなります。
振り返るとあっという間のように感じますが、「十年一昔」という言葉があるように、それだけの歴史を持つ活動として評価する時期にもなってきています。
「人を通して本を知る/本を通して人を知る」というキャッチコピーや、昨年度にディスカッションのテーマとした「コミュニティ」など、この10年の間にビブリオバトルに関するさまざまなキーワードも整理されてきました。
2年前(2014年)の谷口氏の新年度のご挨拶には、「楽しいビブリオバトル」という表現とともに、さまざまな場所や世代に広まるビブリオバトルが述べられております。
http://www.bibliobattle.jp/home/newyear2014

ビブリオバトルが世の中に登場してから10年目となる2016年には、果たしてどのような言葉でビブリオバトルの「楽しさ」を表現することができるでしょうか。
これからのビブリオバトル普及委員会の活動に求められる方向性の一つは、これまでの議論や試行錯誤のなかから生み出されてきたビブリオバトルにまつわる数々のキーワードを踏まえながら、ビブリオバトルの「楽しさ」を表現するための地道な言語化作業に取り組んでいくことになるでしょう。

その言語化の作業は、おそらく「学校教育」「図書館」「地域コミュニティ」それぞれの立場によっても異なるはずです。
たとえば、次回の改訂で、いくつかの出版社の教科書にビブリオバトルが掲載されます。
となると、「学校教育」のなかでのビブリオバトルの位置づけは、これまで以上に既存のカリキュラムと連動するような形で実施していく必要があるでしょう。
既に導入が進んでいる学校の先行事例に倣いつつ、そのノウハウや課題を共有し、「学校教育」にふさわしいビブリオバトルの方向性を見出していくことが求められます。
また、「図書館」におけるビブリオバトルも、公共図書館、大学図書館、学校図書館、専門図書館など、館種ごとに利用者層や提供されるサービス内容に違いが見られるため、開催方法や展開の仕方について、それぞれに工夫の余地がまだ残されているように思います。
「地域コミュニティ」のビブリオバトルに関しても、まちづくりや地域活性化などの観点から、それぞれのまちの実情に即したさまざまな活用方法が見出だせることでしょう。
それぞれの事情や立場を尊重しつつ、それと同時にそれぞれのコミュニティの垣根を越えるような視点も持ちながら、ビブリオバトルの「楽しさ」を語るための言葉を、皆さまと一緒に探っていければと思っております。

今日に至るまでの10年間という時間の流れを考えると、ビブリオバトルの「普及」をシンプルに追求していく時期は、おそらく既に過ぎ去ってしまったように思います。
今後はビブリオバトルの「展開」の仕方について、それぞれのコミュニティごとに、どのような形で実践していくのかがこれまで以上に問われることになると思います。
そのような期待に応えていくためには、実践をもとに地道に言語化していく必要があります。
未だ私たちがわかっていない、言語化できていないビブリオバトルの楽しみ方を、ぜひ皆さま自身の実践のなかから発見し、それを言葉で表していただきたいと思います。

ビブリオバトル普及委員会は、ビブリオバトルを楽しむさまざまな立場の人たちをサポートしていくために、その「楽しさ」を緩やかに着実にガイドしていくような活動を、引き続き目指していきたいと思います。

本年度もビブリオバトルをどうぞお気軽にお楽しみください。
多くの名勝負が各地で生まれることを期待しております。
皆さまのご多幸を祈念して、新年のご挨拶といたします。

2016年1月1日
ビブリオバトル普及委員会代表
岡野裕行